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ホスピスという選択/父の遺産②
人の最期というものは、当然人によってさまざまです。けれども、多くの場合最期は予期できないときに訪れるように思います。だからこそ、人は今日を生きることが出来るのではないでしょうか。自分の最期が予期出来ない状況だからこそ、人は明日へと向かって生きていけるような気がします。

数年前に長男を亡くした私の父は、幸か不幸かひとり娘となった私に自分の最期を決められるという運命を背負います。大きな一般病棟で、回復の見込みのない患者の扱いはみじめなものでした。充分なケアも受けられず、大きな不安のためか父はある日病院を脱走しました。腕からは無理やり外した点滴の針痕から滴る真っ赤な鮮血を流しながら…。

私は、父を自分の暮らす街のホスピスに呼び寄せることを選んだのでした。


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ホスピスは、自分の命を終える場所です。平均滞在期間が2週間というその場所で、父は2ケ月半以上生きてくれました。大阪から私の運転する車でホスピスに到着したその日、父は主治医にきっぱりと言います。「どうすれば治りますか?どういう治療をしますか?」…私は困惑しました。ホスピスは治療をするところではないと、自宅を出るときに説明をし、本人も納得していたと思っていたからです。私や主治医に自分の病が治らないと言われる気分は、おそらく想像もできない絶望感だったはずです。自分がその宣告をしているという事実に、私も愕然としました。そして父は、声を震わせて泣きました。「…私は、この子たちに自分ががんばっている姿を見せたいんです。」と。

私がホスピスを選んだのは、父を絶望させるためではありませんでした。仕事に明け暮れ、友人も持たなかった父に、せめて最後は人としてゆったりとときを過ごして欲しいと願ったからです。父が転院してから、ホスピスではクリスマス、お正月、豆まき、雛まつりと季節毎のイベントや室内飾りが院内を飾っていました。ボランティアの方が話相手になって下さったこともあったようです。音楽療法、ペットセラピー、いろいろなことがあったようです。日々死に瀕していく父にとって、それらは浅い夢のように無意味だったかも知れません。私の自己満足だったかも知れません。けれども、痛みや不眠に苦しんでいるときに親身になってケアしてくれるターミナルケア専門の看護師さんたちのやさしさは、どれだけ父の苦痛を和らげて下さったか測り知れないでしょう。ホスピスはキリスト教の精神を引き継いでいるところも多く、父のお世話になったホスピスもそうでした。父や私や母のために、祈って下さる担当看護師さんの励ましが、会社の行き帰りに立ち寄るしか出来なかった私に大きな力を与えて下さいました。

父が私の選択を喜んでくれたかどうかはわかりません。ただ、不思議なのです。生前よりも、父は私の中でその存在が近くなった気がするのです。
父の死の数日後、最後の手続きをするためにホスピスへ向かっていたときふと「私は父に信頼がある。」そう感じました。そして、涙が止まらなくなったのです。「信頼がある。」という言葉は死者には使いません。生きている人間に使います。私の中で、父は死んでいなかった、それが実感出来てうれしかったのです。

父が残した遺産。それは、人は死によって滅びるのではなく、残された家族の中で生きるための力になってくれるというあたたかさ。私は父の死によって強くなりました。ひとりではなく、父が私の中にいてくれるから。

ホスピスで過ごした最期のあの数か月を、私は生涯忘れることはないでしょう。




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【プロフィール】

2003年/
・フィルムアート社編集長津田博史氏が講師を務めるアートリテラシー講座を受講
2005年/
・15回日本ダンス評論賞にて第1席
2006年/
・現代アート、演劇、ダンスなどについての評論活動スタート
2007年/
・ATL発足。
アーティストのPR支援、「レビュアーのためのワークショップ」を企画・運営
2008年/
・コミュニティFMラジオSAN-Qにてアートに関する番組をスタート(Art Life for SAN-Q)
・アーティストのマネジメント+公演の実施(psycho-lot+ 長野県松本市・10月)
・身体表現誌CORPUS編集員に就任
・webマガジン 名古屋アートライフ編集員就任
2009年/
・ブログ『理由/Re:you』開設

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