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あなたに聞いてほしいこと、あなたから聞いてみたいこと。
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眠れぬ夜の狂詩曲①
このブログマガジンをスタートするとき、発起人の神谷プロデューサーにインターネット上の表現での「匿名性」について話したことがありました。言い換えれば「成りすまし」がネット上での表現では可能です。悪用というネガティブな面を除けばネット上での匿名性には「自由」が備わっていると思います。例えば現実の年齢や性別や職業などから解放されて、ハンドルネームで表現していることなどがその表れではないでしょうか。 そこで、この「fantasy of the night story」では、keiki-kaが別人格を使ってショートストーリーを書いていくということをしてみようと思います。ストーリーといっしょに、どんな人物が書いているのかにも想像を馳せて楽しんで頂けるとうれしいです。 コツコツと足音を響かせながらコンクリートの階段を3階まで上がると、一番手前が僕の部屋だ。12月も間もなく終わるというこの時期、吐く息が白くなるほど今夜は寒い。廊下のぼんやりとした灯りに腕時計をチラリと見ると夜中の12時を過ぎていた。肌を刺すような寒さだというのに、異常なくらいの眠気が僕を包んでいる。このとき、意識はほとんどなかったといっていい。いつものように階段を上がり、いつものドアの前で鍵を開け、いつものように部屋に戻ったつもりだったが、そのあたりの記憶がふっつりと消えているのだ。 目が覚めたのは、まだ明けきれない夜の余韻が残った早朝だった。左手首に窮屈さを覚え、布団から腕を出してみると、外し忘れた腕時計が4時半をさしていた。ベッドの中にいたのだが、ひどい寒さだった。しかし、それもそのはずだ。寝室の窓が半分ほど開け放たれていたのだから。僕は自分がいったいなぜそんなこと(寒い夜にわざわざ窓を開けたまま眠る)をしたのか不思議だったが、とにかく窓を閉めようと起き上った。布団から出た瞬間、気を失いそうな冷気が背筋を撫で、名残惜しそうにすがりついていた眠気が悪寒に変わる。僕は凍えながら窓に近づくと、ピシャリと閉めた。 セーターを被り、暖房器具のスイッチを入れる。台所に行き、ヤカンで湯を沸かす。冷え切った部屋は自分の部屋なのに少しも安らげなかった。首をすくめて足をバタバタしながら歩き回り、その様子は気の毒なペンギンのようだった。沸いた湯を注いでインスタントコーヒーを淹れるころには、何とかイスに座れるほどには落ち着いたが、何かが足りない気分が漂っていた。僕はコーヒーをすすりながら、途切れた記憶を探すようにゆっくりと自分の部屋を見回した。そして気がついた。飼っていた小鳥がいなくなっていることに。
僕と小鳥は3年くらい前から、この部屋で暮らしはじめた。きれいな声でさえずる小鳥で、僕はとてもかわいがっていた。ときどき籠から出して部屋の中で自由にさせてやることもあったし、小鳥もそうして僕の手の中にいることを喜んでいるように見えた。不自由はさせていないと信じてた。銀に近い灰色の羽と、タンポポの花弁のような黄色いクチバシを持っていた。 部屋の床には小鳥のものと思われる羽が散らばっていた。籠の扉には引っ掻いたような小さなキズが残っていて、小鳥が何度も自分で開けようとしたらしい形跡が残っていた。真っ暗な部屋の中で、小鳥には何も見えなかったはずだが、それでもなお、小鳥は籠から出たかったのだろう。僕はコーヒーを飲み干すと、床に散らばった羽をひろい集めた。集めながら、自分が泣いているのに気がついた。僕は、とても大切なものを失ったのかも知れない…そう思うと悲しくて、涙が止まらなかった。 テレビのスイッチを入れると、今日もいつもと同じようにニュースが放送されている。だけど、僕と小鳥のことを報じているニュースはない。ニュースにもならず、存在すら知られない欠けたピースは、いったいこの世界にどれだけあるのだろう。 何が起きたかなど、所詮誰にも分かりはしない。どこからどこまでが現実かなんて永遠に分からない。いつでも大切なものは突然消えてしまうということ、ただそれだけがリアルに僕の手の中に存在しているだけだ。銀に近い灰色の羽をまとって、僕は冬の朝にダイブする。窓の鍵は、開いたままにしているのだから。 PR コメントを投稿する
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Kei-Ka
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アート鑑賞・旅
自己紹介:
【プロフィール】
2003年/ ・フィルムアート社編集長津田博史氏が講師を務めるアートリテラシー講座を受講 2005年/ ・15回日本ダンス評論賞にて第1席 2006年/ ・現代アート、演劇、ダンスなどについての評論活動スタート 2007年/ ・ATL発足。 アーティストのPR支援、「レビュアーのためのワークショップ」を企画・運営 2008年/ ・コミュニティFMラジオSAN-Qにてアートに関する番組をスタート(Art Life for SAN-Q) ・アーティストのマネジメント+公演の実施(psycho-lot+ 長野県松本市・10月) ・身体表現誌CORPUS編集員に就任 ・webマガジン 名古屋アートライフ編集員就任 2009年/ ・ブログ『理由/Re:you』開設 ブログ内検索
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